「一輪どうぞ」
ラッツェルが騎士のように優雅な手つきで棘を削いだ薔薇を差し出す。
軽く片目を瞑って微笑む彼は、エカテリーナの小さな手に薔薇の茎を握らせて、
言った。
「ここは王女専用の中庭なんです。
毎朝、ここの花を手入れするのがわたしの趣味なのですが、
いつしか殿下の侍女に部屋に活ける分の薔薇をお渡しすることまで仕事になってしまって」
「こんなに丹念に……。
そなたは良い趣味を持っておるの。
侍女がこき使いたくなるのも、わからぬではない」
感心してそう言うと、彼は声をあげて笑った。
「侍女には内緒ですよ」
楽しげに笑うラッツェルを見つめながら、エカテリーナは手の中の花弁を弄ぶ。
緋色のそれは触れるたびに、エカテリーナを優しい香りで包んでいく。
広々とした中庭に佇むだけで、香しさに心が洗われるようだった。


