「本当に、わたしは運がよかったのです」
「しかし才能あってこそであろう?」
エカテリーナが問うと、
彼は姿に似合わぬ彼女の厳かな言動に軽く目を見開き、ふわりと微笑んだ。
そして、ゆるりと首を横に振る。
「いえ、この世界は才能など運の前には埋もれてしまう貴族社会です。
わたしは、本当にいい人たちに出会えたからこそ今があるのです」
「そうか」
エカテリーナは彼の事情に深入りしようとしたことを詫びた。
彼が胸の内を晒すことを拒否していることに気づいたのだ。
しかし、ラッツェルは明るく首を横に振る。
「高官となり、陛下に出会えた僥倖はなににも代えがたいことです」
ラッツェルの口調には、前を見て突き進む力にあふれていて。
エカテリーナはもう一度、「そうか」と頷いた。
そんなエカテリーナの鼻先に濃厚な薔薇の香りが吹き抜ける。


