塔の中の魔女


「いけませんよ」


エカテリーナが大輪に手を触れようとしたとき、

思わぬところから声があがり、心臓が跳ねるように驚いた。

顔をあげると、薔薇の木の奥に枝切り鋏を手にした青年が官服姿で立っている。


「そなた――」


「昨日お会いしましたね、小さな魔女どの。
薔薇には棘がありますから、素手で触れては駄目ですよ。
お怪我をしてしまいますから」


穏やかに微笑む顔は、昨日宮殿の入り口で自分たちを出迎えたもので。

なぜ、その彼がこんなところにいるのかと、エカテリーナは小首を傾げた。

しかし彼はその仕草を勘違いしたらしい。

恭しく頭をさげて、自己紹介した。


「わたしの名はラッツェル。
ロゼリン陛下にお仕えする側近のひとりでございます」


「……ラッツェル」