なにもないところから、絹のシーツの上に見慣れた漆黒の衣がばさりと落ちる。
着なれないドレスを脱いで、着替えを終えた。
「やはりこっちじゃな」
脱ぎ捨てたドレスに興味はない。
おそらくかなり高価な衣装に違いなかったが、
エカテリーナは衣服など呪文ひとつで出したり消したりを繰り返していたのだ。
塔の中の暮らしとなんら変わらぬ態度で、脱ぎ散らかしたものを床に放置して、寝台から飛び降りた。
ふかふかの天鵞絨の床を進み、扉の前に立つ。
取っ手の位置が、背丈の低いエカテリーナが手をあげなくてはならない高さだが、
背伸びをすれば開けられないわけではない。
蔦を絡めたような模様の、白金色をした棒状の取っ手を下げ、
エカテリーナは部屋の外に出た。


