白に金の薔薇彫刻を縁取った扉の中央には、ユダ王家の梟と魔法杖の紋章。

ユスポフ家からマジエフ家に王が移っても変わらぬ紋章に、

エカテリーナが不思議そうにロゼリンを見あげたが、

彼はなにも言わなかった。

目の前に広がる天鵞絨(ビロード)の敷布。

内壁は扉と同じ乳白色で、

扉のものよりは小さな金の薔薇が細く絡み合って奥へと続いている。

しかしエカテリーナは、広々とした廊下の脇に控えめに立つ淡い金髪の青年に目を留めた。

柔らかな微笑を浮かべた二十歳ぐらいの青年は、

清楚な官服に身を包み、優雅に一礼した。


「お帰りなさいませ、陛下。
予定通りのご帰還、安堵いたしました」


「ラッツェル、ちょうどよかった。
侍女に命じて、このちびの寝室を用意してくれるか?」


ロゼリンからの予想外の要望に、

ラッツェルと呼ばれた彼は軽く目を見開く。

そして、ロゼリンの足元にくっついている幼い少女、エカテリーナを見た。