「まるで碧玉を散りばめたようじゃ」


エカテリーナの弾んだ声に、ロゼリンが苦笑した。


「残念ながら、そんな贅沢なもの嵌め込んじゃいない。
宮殿の壁がこんな色なのは、
戦乱時に目立つのを避けるために白壁に墨を塗り込めたのが発端らしい。

降伏後、
国の執政を取り仕切る宮殿が軍事要塞のようにも見えたことから、

ゼルダンに属領の意思なしって誤解されかねないって危惧した貴族連中の意向もあって、

軟弱な様式に建て替えられ、壁色も墨から一転、華やかになったそうだ」


「軟弱……」


ロゼリンの言い草に呆れつつも、

エカテリーナは精緻を極めたかのような宮殿を、飽くことなく見つめる。

そんなエカテリーナを促しながら、

ロゼリンは幾何学的な左右対称(シンメトリー)の広大で秩序を保った庭園を突っ切って、

乳白色の大理石の階段を登る。


エカテリーナの小さな歩幅に合わせてゆっくりと登りきると、

待ちかまえていたように両開きの大扉が開いた。