「おぉい、起きろ」


聞き覚えのある声に、はっとエカテリーナは目を開けた。

目の前には金の髪、碧眼という、

いつか見た聖堂の天使を模したように綺麗な顔立ちの青年。


ぱちぱちと目を瞬かせて頭の中を整理していると、

目の前の青年が盛大に顔をしかめた。


「おい、涎……」


言って、彼は無造作にエカテリーナの口元を、自らの袖で拭った。

絹の柔らかな感触が唇を撫で、エカテリーナは慌てて彼の手を引き剥がす。


「泥の味がする!」


「失礼な、一応洗濯はさせたぞ!」


憮然と怒るロゼリンは、

塔からの脱出にエカテリーナともども、全身を泥まみれにさせてしまったが、

近くの村に駐屯させた護衛の元へ戻るとすぐに身体を清め、着替えを済ませた。

そのため、エカテリーナの口を拭った袖には染みひとつない綺麗なものだった。

その代わりに、エカテリーナの涎によって濡れている。