ロゼリンは嫌そうにエカテリーナの指をほどいて手綱を握り直すと、勢いよくそれを引く。
馬首を後方へ向けて、鐙で馬腹を蹴った。
エカテリーナは反射的に青年の腰に手を回して、馬から振り落とされるのを耐えると、叫んだ。
「やめよ!そなた、死ぬぞ!」
けれど、ロゼリンは聞かなかった。
黒い群れの中に突っ込み、剣を降りおろす。
蝙蝠は散々に逃れたかと思うと、再び竜の形を取り戻し、襲いかかってきた。
鋭い矢のような塊が、ロゼリンの上質の絹の袖を引き裂く。
血が飛び散って、エカテリーナの頬を濡らした。
馬を反転させて、向かってくる蝙蝠の群れに突進しては剣を振りおろす。
いくつかの蝙蝠が羽を斬られ、あるいは首を落とされて、沼に落ちていった。
しかし、蝙蝠の群れは千々になったあと、再び渦を巻いて竜を形成していく。
うねりを生んだ風が、エカテリーナの髪を天に引っ張る。
見あげた空は、どこまでも澄んでいて青かった。


