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生ぬるい風が頬を撫でる。
空を駆ける天馬のような馬に跨がったエカテリーナは、背を預ける青年を見あげた。
黒い蝙蝠の群れに追われながら、結界を目指す馬の脚は道らしき道のない宙を駆けるためか迷いがない。
地揺れもないし、底無しの沼もないので、唯一の恐れは背後だけだ。
しかしエカテリーナは知っていた。
この先、結界を抜ける手段。
自らの呪いを打ち壊す手段。
それはユスポフ王の許しか、もしくはエカテリーナ以上の魔法使いが強力な魔力で破る以外にないのだ。
ロゼリンはこの国の王ではあるが、ユスポフ王の血脈を受け継いではいない。
そして、この国には魔法使いがいない。
――呪いを解く手立てがない。
ロゼリンの励ましは嬉しい。
でも、エカテリーナは馬が逃げ回ったあげく、力尽きて蝙蝠の群れに叩き落とされることを知っていた。
――――これでは、ただ時間が過ぎるのを待つばかりじゃ。


