「わらわを降ろせ。
あれはわらわを噛み殺さねば消えることはないであろうが、わらわが死ねば結界も消える。
そなたはそれまで、なんとしても生き延びるために逃げて、結界の外へ向え」
エカテリーナがそう言うと、ロゼリンの腕が苛立ったように目の前の小さな頭をわし掴んだ。
エカテリーナがぎょっと目を剥くと、その耳元でロゼリンが怒鳴る。
「ちび!いい加減にしろよ!
俺はおまえを王城に連れて帰るためにここにいるんだ。
わかったら、ほら!
早くここを抜け出す方法を考えろ!」
「しかし……」
「ごちゃごちゃうるせぇ!
後ろの蝙蝠みたいに空飛ぶ魔法とかないのかよ!?」
「ある、が」
「だったら、早く使え!」
わし掴んだ頭を前方に固定されて、エカテリーナはぎこちなく杖を振った。
「マギ・ディス・イ・レイブ(風よ、我が足となり、空を駆けよ)」
馬の身体が宙に浮く。
躊躇いに半身をあげた馬は、しかしすぐに順応して沼地の上を滑らかに駆け出す。
「一緒に結界を出るんだ、いいな?」
念を押すロゼリンに、未だぎこちなくエカテリーナは頷く。
よし、と言うように、くしゃくしゃと白銀に煌めく小さな頭を撫でられた。


