塔の中の魔女


「塔にあんなもん飼ってたのかよ!?」


「そうではない。あれは元は一匹の蝙蝠にすぎなかった。
自らを封じ込める、この結界という呪いを作り出す媒体に用いただけの、小さな蝙蝠」


「自ら?呪い?」


ロゼリンが怪訝な顔で頭を捻る。


「わらわは王の沙汰によって幽閉されることを望んだ。
死ぬまで塔から出ることなく一生を終えようと。
それは誰にも邪魔されたくはなかった。
悪行を働く賊や、高位の魔導師、たとえ幽閉した王が心変わりして罪を許されたのだとしても、
わらわは邪魔されたくはなかったのじゃ」


「なんでそこまで……」


言って、ロゼリンは不意に手綱を引く。

馬が馬銜(はみ)を噛んで、前肢をあげた。


高く嘶く馬の背にしがみつき、落ちないように身を強ばらせたエカテリーナは、

突然のロゼリンの行動に顔をあげた。

目の前に、沼が広がっていた。

泥に僅かに足を取られた馬首を動かして、彼は急ぎ、方向を変える。

すぐ背後には、あの蝙蝠の群れが迫っている。