「なんだ、これ?」 思わずロゼリンは耳を庇うように、手を伸ばした。 頭上でざわめきが膨れあがる。 なにかにのし掛かられるような圧迫を感じて、ロゼリンは顔をあげた。 そして言葉を失った。 「逃げろ、早く……」 エカテリーナの小さな震え声を耳にして、ロゼリンの足が前に踏みだす。 消失した上層階の石壁が、大きな塊となって崩れ落ちる音がした。 階下に広がる砂埃は、一瞬の猶予を与えたにすぎなかった。 黒いいくつもの小さな影が、 竜のうねりを描いて、立ち竦むふたりに襲いかかってきたからだ。