塔の中の魔女






青年が立ちあがる。


エカテリーナは彼を見向きもしなかった。

王女を守るため、彼の成そうとしていることに怒りを覚えるが、

一国の王が決断したこと。

辺境に住むエカテリーナが口を挟むことではない。

彼の決断によって、さらに国が窮地に陥ろうとも、

エカテリーナにはもはや関わりのないことだった。


エカテリーナの言葉は青年には冷たく響いただろう。

無力感に打ちのめされたかもしれない。


けれど、青年は毅然と顔をあげた。

王らしく背筋を伸ばして、顔を背けたままのエカテリーナを見つめると、

再び屈みこんで片膝を折った。


それは騎士が目上の者に示す礼。


気配に気づいたエカテリーナは、振りかえるとぎょっと目を見開いた。


「そなた、なにをしておるのじゃ――」