「…………そうだ。
身代わりになる娘の両親には、一生贅沢をしても余るくらいの金を用意させるつもりだ」
「それで、娘を死なせるとわかっていて親は承服しておるのか?」
「親は泣きながら反対していた。
だけど侍女のターニャが、
……身代わりになる娘が了承してくれた。
両親を頼むと言って」
奇特な娘じゃな、
と口にしかけてエカテリーナは止めておいた。
そのターニャとかいう娘は、おそらく王女付きの侍女なのだろう。
殺されるとわかっていて嫁ぐ王女に同情し、
自ら犠牲になることを望んだのかもしれない。
端から見ればそれは美談だ。
ユダの中では。
しかし、身代わりが発覚しない保証はどこにある?
生まれたときから王女として教育されてきた者と、
宮殿に召しあげられた貧しい出自の娘を、
同じ人物に見せることは不可能だ。
たとえ姿形を魔法で変えても、佇まいや気品は誤魔化せない。
過去に目にしたことがあるのならなおさら、その婚約者は疑いを持つだろう。
そして、
一度失った信用は取り戻せなくなるのだ。


