塔の中の魔女


「姉上を守るためには、しょうがないと思った。
どうせ殺されるなら同じことだってな」


エカテリーナは椅子にもたれ、

怒りを鎮めるためにゆっくりと目を閉じた。


「今、それを口にするということは思い止まったのじゃな?
それはなぜじゃ」


「婚儀の相手がゼルダンの第二王子だからだ」


「?」


エカテリーナが先を促すと、

青年は忌々しそうに続けた。


「第二王子のフィリップとは面識があるんだ。
俺が五歳の頃、ユダの聖枝祭に彼を招いたから」


エカテリーナの唇からため息が漏れる。

目を開けて足元を見ると、

青年は未だ椅子にかじりついたまま動いていなかった。


「婚儀の際に別人だとわかれば、大騒ぎじゃな」


「どうすればいいのか、俺にもわからないんだ。
だから、魔法で姉上の姿に変えた誰かを身代わりに――」


エカテリーナの赤い眼差しが、青年を鋭く睨みつける。


「小僧、そなた、そんな汚い手を使うために、わらわの魔法を利用しに来たと申すか?」