「俺には姉がひとりいる。
ひとつ年上の気立てのいい娘だ。
その彼女に縁談話が持ちあがった」
「……王家に生まれた姫が政略の道具にされるは常識であろ?
今は違うのか」
「違わない。
だが、その話を持ちかけたのはゼルダン。
五百年前にユダを滅ぼした国だ。
彼らはこの五百年の間、ユダの王家に生まれた娘をゼルダンに嫁がせるように言ってきた。
相手は王族であることもあったが、ほとんどが侯爵や、子爵といった地方貴族だった」
「……戦で負けたのであれば、それも致し方ないことであろう。
大国との絆が深まるを信じて嫁いだのであろうから、反論など――」
青年の手が、エカテリーナの座る樫の椅子の足を掴む。
「……全員殺されているんだ」
「なに……?」
眉をひそめたエカテリーナに、青年は血を吐くように続けた。
「ゼルダンに嫁いだ姫はすべて、
魔女裁判にかけられて殺されたんだ――――!」


