「わらわは――」
エカテリーナは青年の言葉に、さらに不満を言い募ろうとした。
けれど、不意に視界が揺れて、
見慣れたはずの部屋が上下に回転する。
「ちび!」
青年の慌てふためいた声が聞こえた。
白い絨毯がなぜか目の前に迫り、
不思議に思っていると、強い力で引き起こされる。
「……この馬鹿、こんな小さな身体で一気に飲み干したら、倒れるのは当然だろ」
呆れた声に顔をあげると、
整った青年の顔がエカテリーナを心配そうにのぞき込んでいるのが、ぼんやりとわかった。
「……飲まずにおれるか。
そなたの言うことは出鱈目ばかり。
なにが、陛下は崩御されたじゃ。
なにが、五百年経ったじゃ。
魔法使いがひとりもおらぬだと?
ここにいるではないか、わらわはれっきとした魔導師だぞ。
若い魔法使いを指導し、統率するが仕事の!」
エカテリーナは青年の腕を退かせ、樫の椅子にすがりつく。
倒れ込むように座って、火のはぜる暖炉を見つめた。
「…………ちび」
「わらわは、ちびなどという尊厳の欠片もないような名ではない」


