塔の中の魔女


バンッと掌をテーブルを打ちつける音に驚いて、

エカテリーナがゴブレットを唇から離し、口を拭う。


「な、なんぞ?」


エカテリーナが狼狽えて青年を見あげると、彼は小さな手の中からゴブレットを取りあげて、

エカテリーナの手の届かない棚の上に置いてしまった。


「あ、馬鹿者。なにをする!」


もちろん杖をひと振りすれば、すぐにも取り返せるのだが、

なぜかそれを躊躇わせる青年の視線に、抗議の言葉しかでない。


「未成年が酒飲むな」


「わらわは、そなたが申すに五百歳を越えておるのだろ?」


やはり、嘘だったと白状するのだろうか。

そう思って問い詰めれば、剣ダコのある武骨な指で頬をつねられた。


「ふれいほの!な、なにほふるか!(無礼者!なにをするか!)」


白桃のように柔らかい頬を珍しそうにぴょーんと引っ張る青年の顔は、この不遜極まりない行為を楽しんでいる。


「ぷっ、くくっ。面白れー顔……」


「ええい!放さぬか!」


「だっておまえ、いくら五百歳越えてても、
こんなにちびじゃ、アルコールは駄目に決まってんだろ?」