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エカテリーナは青年の言葉の綻びを探した。
それが見つからないということは、この国はとうに滅んでいるということで。
とうていエカテリーナには承伏できない事実だ。
王が崩御したなどと、ユダに魔法使いがいないなどと、誰が信じよう?
「そなた、そちらに座れ。長く外にいて冷えていたであろ?
暖かいものを用意するゆえ」
「へぇ、ちびが入れてくれるのか、楽しみだな」
青年の表情が喜色に染まる。
暖炉の前に置かれた樫の椅子を引き、ふと首を傾げた。
「どうした?
さっさと座らぬか。
客人が来るとわかって、急ぎ揃いの物を用意したのじゃ」
「へぇ、バロック様式だな。
俺好みだ、ちょうど宮殿の食卓の椅子もすべて、こんなデザインだ」
「バロック?
椅子に様式なんぞあるのか。
このテーブルや、上の階のキャビネットもそうなのであろうか?」
「脆弱なロココ様式がゼルダンからひっきりなしに入ってくるからな、
今となっちゃ、むしろバロック様式は珍しい」
屈み込み、椅子の足を眺めている青年に、エカテリーナは首を傾げた。


