塔の中の魔女


「これ、どういう仕掛けなんだ?」


おっかなびっくり床を凝視している青年に、エカテリーナの悪戯心がムクムクと成長していった。

にんまりと笑んで、青年の無防備な背中をめいいっぱい押す。


「うわっ!」


短く悲鳴をあげて、青年が転げそうになりながら、二階の絨毯を踏みしめた。


「なんじゃなんじゃ、ビクビクしおって。
浮遊魔法なぞ、王宮では珍しくもあるまいに。
やはりそなた、王と申すは嘘偽りではないのか?」


階段から絨毯に飛び移りながら告げたエカテリーナに、

戸惑いを見せていた青年が振りかえる。

文句を口にしかけて、エカテリーナの目を見ると口を噤んでしまった。

「……なんじゃ?」

青年の神妙な表情が、エカテリーナには不満だった。

自分は王だ、こんな程度の魔法など宮殿で見飽きている――そう言った答えを予想していた。

もっと、エカテリーナの不安な心中を拭い去ってほしかった。

それなのに――。


青年は痛むような表情を浮かべて、言ったのだ。










「今のユダは、もう魔法使いはひとりもいないんだ」
と。