「…………ずいぶん若い使者じゃな」
といっても、八歳のエカテリーナの容姿には敵わないのだが。
階段をコツコツと上がってくる革靴の音に耳をそばだてる。
やがて青年は、エカテリーナが驚くような行動を起こした。
きょろきょろと物珍しそうに塔の内部を見上げながら、息を大きく吸って、
「おぉい!ばあさん、頼みがあって来たんだ。会ってくれないか?」
と、不躾な言葉を響かせたのだ。
エカテリーナは唖然とした。
今の言葉を聞き、目を見開き固まった。
それまで、びくびくと様子を伺っていたエカテリーナは、
魔力を宿した爪を立てて、うっかりと、ほんのうっかりと絨毯を歪めて、僅かに放出する魔力によって、それを焦がした。
――――ばあさん?
あの者は、今、そう言ったのか?
混乱するエカテリーナの思考を置き去りに、再び青年が口を開く。
「魔女のばあさん!いねーのか?」
留守なのかぁ?
と、ぶつぶつ呟く青年の不遜な態度が信じられない。
このエカテリーナを、ばあさん呼ばわりしたのだ。
かつては王族相談役でもあった幼き魔女、エカテリーナに。
エカテリーナが理解したその瞬間、
しん、と静まり返った塔の中、
弾けるような光が走った。


