青年は、恐れる様子もなく、堂々と塔の中へと踏み込んだ。


幸い、入り口からの正面はただの石畳があるだけだ。

底冷えのする寒さを嫌ったエカテリーナが、

階上に好き勝手に部屋を作ったのにはそういった理由もあったのだ。


青年は、不思議そうに部屋の中を見渡したあと、塔の壁に沿って長い階段が続いているのに気づいた。

気づいてしまった。


エカテリーナは、あふれ返るお菓子の部屋から恐る恐る見下ろしていた顔を慌てて引っ込めた。


「…………どうしよう?そもそも、来たのは誰なのじゃ」


エカテリーナは、この五百年、自分に害をなそうとする者への排除は怠らなかったが、

こうして規律を守って、やって来る者を迎え入れる言葉を準備していなかった。


礼儀を知らないわけではない。

どういう態度を示せばよいのか、決めかねているのだ。


考えあぐねて、エカテリーナは再び絨毯に這いつくばると、階下を見おろす。


床が魔法の力で持ち上げられているそこには壁との間に隙間があって、階下を覗き見ることができるのだ。


一度天井を見上げて、階段に歩み寄っていくその使者は、年が十七、八くらいの金髪の青年だった。