「はっ!そうじゃ!こういうときこその魔法!」
杖でくるりと魔力を分散させながら、エカテリーナはもう何年も変わらぬ呪文を繰り返した。
「マギ・ティス・バディル」
望みし物はなんでも手に入れられる。
美しいグラスも、華やかに香る香水も。
でも今、エカテリーナが欲したものは優雅なソファや甘いお菓子などではなかった。
ばさりと音を立てて黒魔導士の衣装が頭上から降ってきた。
黒い光沢のある絹のチュニック。
同系色のプリーツスカートにタイツ。
そしてとんがり帽子に、上を向いた靴。
襟元には青と白のリボンがあしらわれ、胸には王立魔導師の銀の紋章。
身につければ、品のあるお嬢さまの風格さえ漂わせる、洒落た衣装だ。
はたしてそれは、魔法でその生地が織られるゆえんか。
それは王所属下の黒魔導士の制服だった。
王立魔導師の紋章の下には、魔法使いのランクを表す白い線が入る。
本来、エカテリーナに入る線は四本だった。
最上級魔導士の、
王族の相談役に相応しい身分を、その身に与えられていたから。
栄華を誇る魔法王国ユダの、
明るい未来を約束された誉れ高い少女、それがエカテリーナだったから。
けれども、今のエカテリーナの魔導着には、白い線は一筋も入ってはいない。
剥奪されたのだ。
罪を侵し、この身を投獄された、そのときに。