「ほら食え」
私の前にまたも焼き魚が出された。

両手を膝の上に置いたまま、借りてきた猫のように静かな私を見て、
私の前に出された魚を取り上げた。

何をするのかと見ていれば、なんと、北島さんは魚の骨を取り、食べやすいようにほぐしてくれていた。

意外な一面をみた。

いただきますと言い、私は箸を持った。

「ここのメシは一番旨いぞ」
塩辛をつまみに日本酒をひっかける北島さんはなんだか昭和な香りがした。この店にマッチしている。

初めて会った所は恵比寿の高級マンション。
クラシックを聴いてシャンパンを飲んでいた。

それが今日は「居酒屋 たぬき」というふざけた名前の店で日本酒片手に塩辛を楽しんでいる。