にこっと笑う北島さんは、右手をポケットに突っ込んだまま、左手を引き戸にすっと伸ばし、
カシャッと一度に戸を開けた。

背中を少し丸め、のれんをくぐる。

「はい、どーも!あ、毎度!ゆうちゃん!」

中から野太いおっさんの声が聞こえた。

私の目の前にはでっかいたぬきの置物がいる。
そしてそのたぬきの横に店の入り口がある。

赤いのれんには、「たぬき」と書かれている。
昔ながらの木で作られた昭和の香りがぷんぷんする「居酒屋 たぬき」の中に消えた北島さん。

何の冗談だか考えるのに店の前で立ちすくむ私。
イザーヌっていうのがなんで「居酒屋 たぬき」につながるのか、理解に苦しむ私に追い打ちをかけた。

「遅い!さっさと入れ!」たぬきの中から怒声が響いた。