「・・・信じらんない!」田中さんの怒鳴り声に祐哉が振り返る。
パシっと破裂音が聞こえ、祐哉が平手打ちされたのに気付く。
「その気にさせておいて、これって、ひどすぎます!」
鬼のような形相で睨みつめる田中さんの目には、憎しみしか映っていない。
この人・・・ほんとは・・・
パシっ!という音とともに私は頬に衝撃を感じた。
次の瞬間には、私は絨毯に膝と手をついていた。
「さいってー!!!」私たち二人を引っぱたくと、
バッグをひっつかみ、すごい足音を立てて、出て行った。
ドアーを力任せに開けて壁に叩きつけられる怖い音が
数回聞こえ、静かになった。
痛いっ・・・口、切れた?なんか血の味がする・・・
「大丈夫か」私の顔を手で覆う。
ん・・・と首を上下に動かす。
「・・・口、切れてるな」
「祐哉も・・ぶたれたし・・・」
お互い引っぱたかれたことに、なぜかおかしくなって、
・・・久しぶりに二人で笑った。
うん、分かってる。
笑えるようなシチュエーションじゃぜんぜん無いんだけど、
人間って不思議なもんで、予期せぬことが起こった次の行為というのは、
『笑う』ことだ。

