記憶の箱の番人を記憶の箱とともに抱き締めてやった。
自分で自分を褒めた。
まず、自分自身を自分で褒めてやらないで、誰が褒めてくれるのか。
認めた上で始めて一歩踏み出せるってもんだ。
「桃華さんの頭はお勉強だけのためにあるのね」
「そんなことはないと、思いますよ」
私より10才も年上には見えないかすみさんが歯に衣着せぬ言い方で言葉を浴びせる。
でも、まぁはっきりしといてよかったわ。
私はてっきり桃華さんと高鍋ができそうになってんじゃないかと思ってやきもきしてたのよ。
彼はそんなことないって言ってたけど、女の感?ってやつ?
そうしたら、上のバーで会ったときに、一目散に逃げたでしょ?
怪しいって思った。
外れる女の感だなと思うけど、言わない。
「そもそもなんでかすみさんはあのとき祐哉と一緒にバーへ?」
それ、不思議。
「祐哉んとこに遊びに来てて、丁度その時部屋のインターホンが鳴ってね、それが高鍋だったのよ」
自分の彼氏なのに、高鍋って呼ぶんだ・・・
「で、桃華さんが部屋にいないから開けてくれって頼まれたわけ」
ん?
「でだ、部屋にいないお前がこのマンションのどこかにいるとしたら、それはもう最上階のバーしかねーだろ」
祐哉が後押しした。
「最上階のお風呂かもしれないじゃない」
飲んだくれ大将みたいな感じでちょっといや。
「それはないな」
「なんでよ」
「改装中だからな」
はいそうですか、私が悪うございました。
「それで、二人で飲みに行くなんて、何事なわけ!って感じで、わざわざ出向いてやったのよ」
勝ち誇るかすみさん。
ああ、あの時祐哉の後ろでにこやかに笑ってると思ってたかすみさんの笑顔は、
怒りの笑顔だったんだなと、この時初めて気づいた。

