そのボールは、お世辞にも綺麗とはいえない年季が入ったものだった。

「うわー、ボロボロだね、このボール」

卓也もそのボールを覗き込む。

「本当だね。そういえば、他のボールも全部似たようなものだね」

「まあな。それにしても、千絵ちゃん。三人しかいない学校に、こんなにボール集めてどうするつもりなんだろうな」

笑いながら発するその言葉とは裏腹に、健一の表情は穏やかで、見ようによっては泣きそうにも見えた。

「何だか片山先生らしいね、そういうところ」

そういいながら卓也はバスケットボールが入れられたカゴに近づくと中から新しいボールを取り出そうとしてピタッと動きを止めた。

一度後方を振り返り、健一と鈴を見たが二人とも自分の世界に入っているようでこちらの様子に全く気がついていない。