「………はい」


虫の息ほどの声で言葉を紡ぎ、

これ以上無いほどに苦笑してみせる。

だって、『嫌です』とは口が裂けても言えないもん。

この状況で断れる人がいるだろうか?


これが今の私に出来る唯一の抵抗。

あぁ~~ホントにもう!!

私の人生、何でこんな風になっちゃったのかしら?


不本意ながらも返答してしまった私。

ため息交じりの苦笑いしか出来ない。


あぁ~~ぁ~~こんな事ならいっその事、

この職務を放棄して、会社も辞める?

けれど、実際問題、それはかなり勇気がいる。


就職難のこのご時世で、

格闘技しか能の無い私に

果たして、他に仕事があるだろうか?


それにこの極秘任務、

精神面が極限的に辛いだけで

それ以外の事は結構おいしい。


美味しいカクテルが無料で飲めるし、

お料理の腕も鍛えられて、

好きなバイクに毎日乗れるし、

それに、夢のような超高級マンションでの生活。

さらには『特別手当』と称しての破格のお給料。


我慢出来ない事はないし、

現段階で断る理由が思いつかない。


『男装』する事と『偽の恋人』になりすます以外は。