「朱莉、帰らねぇの?」
ぼーっと机を見つめていると、朝みたいに山岸が話し掛けた。
「あ、ううん。帰る」
ため息を落としてから立ち上がると、山岸が笑顔で言う。
「今日、朱莉の好きなクレープ屋半額って知ってた?
違うクラスの女子が話してた」
「え、本当? ありがとー、山岸」
「誰がおごるって言ったんだよ」
山岸と笑いながら教室を出て階段を降りる。
その途中で、一度だけ、後ろを振り返った。
……でも。
探していた人の姿はなかった。
「はい。って結局オレがおごってるし。なんでこうなるんだよ」
ふたつのクレープを両手に持った山岸が笑いかける。
あたしが頼んだのは、イチゴとラズベリーのレアチーズクリーム。
山岸が頼んだのは、ツナとタマゴのレタスマヨネーズ。



