『じゃあね、朱莉』


先輩が爽やかな笑顔で階段を上がって行った後も、あたしはその場から動けなかった。


5時間目はまだ終わってなかったから、自習時間の先輩とは違って、授業中の教室に入っていくのはまずかったから。

だから、授業が終わるまで待つ必要があるわけで、仕方なく。


言っておくけど、先輩のキスの余韻が残ってるとか、そんなんじゃ絶対にない!


「……誰にいいわけしてんだろ」


誰もいない階段の踊場に、あたしのため息が落ちた。


作戦を仕掛けてるのはこっちなのに、何一つうまくいかない。

倍返しもいいとこだ。



“先手必勝”

誰が言ったんだか知らないけど……。

話が違いすぎるんですけど。