カイの寝室まで連れてこられたナナセは、初めて飲む温かく甘い飲み物を渡され促されるままにベランダに出た。

誰も盗み聞きされないようにと穏やかに笑って、カイは魔術をかけた。

ここへ辿り着くまでに、ナナセは父の深い悲しみの片鱗を感じ取ることができた。

彼女でもなんとなく、今から何が話されるのか悟った。

内緒とでも言うように小さな声で、カイはゆっくりと──まるで、昔話のように語り始めた。


「俺は10年前にナナセのお母さん、ハルルと出会ったんだ。」

──語り始めは、そんな言葉だった。


ハルルは有名貴族の令嬢で、魔力を大きく秘めた少女だった。

ハルルはナナセにそっくりな空みたいな青の瞳をしていたな。
出会った時もハルルは何かに追われていた。

教えてくれなかったが、きっと首狩りに襲われていたんだろう。

首狩りは、ハルルは、大きな魔力を持っていたって、言っただろ?
強い魔力のある者の首は闇のルートで高く売れるんだ。

噂だが、闇の魔術には、本当に生きている生き物を使って、強い力を得る魔術があるらしい。

ハルルは力のある魔術師だったから、追われていたんだろう。

さて俺は──今のナナセみたいに城下町に降りるが大好きで、ハルルに出会ったのも、城下町だった。

ハルルは追われていたから、二人でまいたんだ。

城下町は俺の方が知っていたからね。

 そして出会って一年後、俺とハルルは結婚した。ハルルは大貴族の娘だから、反対は少なかった。
ハルルはいつも命を狙われていた。
最後まではっきりと自分からは教えてくれなかったけど。

移動中に狙われたり寝室が爆破されたり、頻繁に起きていた。

ハルルが殺されたのも、誰かがそうやったんだろう。
外国へ視察旅行に行ったハルルは、帰ってきた時には骨だけだったから。

詳しく調べようとしても、手掛かりが無かった。

だから俺が知っているのもこれだけだよ。


──でも、彼女はきっと覚悟はしていたんだろう。
出掛ける時はこの子をよろしく、と言い忘れなかったから。

今ならそれが彼女なりの覚悟に思えるんだ。

それがナナセが三歳、五年前の話。