人に綺麗だなんて、それも男の人になんて、どうしてそう思ったのか分からなかった。ナナセのそれはただの直感に過ぎなくて、けれど心の奥底で切にそう思ってしまった。
耳と同じ色をした黒髪は、世界の黒とは違う色に感じた。真っ直ぐに見つめてくる少年は、闇に染まっているはずなのにどこか澄んでいて、息を忘れた。頬の血を拭う姿すら綺麗で、声を見失った。
世界に染まった自分とは対称的な煌めきに、眩しい思いがした。
少年は少女に視線をやる。身構えた少女へ近付いて、少年は手を差し出した。
「これ、お前のだろ?」
少年は握った右手をナナセの目の前で開いた。その手の中には血に濡れながらも金に輝くルイの石。
「ありがとう……。」
耳飾りを返されることはナナセにとって意外なことで、言葉をうまく見つけることが出来ないままに両手を広げ、受けとった。
どうして助けてくれるのか、どうして返してくれたのか、分からなかった。
キンヤのときは、珍しく警戒心を忘れていた。静かに身を引き彼と距離をとる。
「お前、ルイだろう?」
「──……あ、」
動揺にナナセの瞳が揺らいだ。見ていただろう少年が笑ったような息を吐く。
「そんな姿していたら、だれでも分かる──ナナセ王女?」
小馬鹿にしたような声の響きに、ナナセは心中で憤慨した。
「そうです。あたしはルイ。ルイ・ナナセです。」
自分を狙う首狩りに見せる強気な目をしてみせた。何の足しにならなくても威嚇しないよりはする方が良いはずだ。
けれども彼は威嚇した少女を鼻で笑って、路地に目を遣った。
「俺はお前の首を狙ったりしてねえよ。狙っていたならソイツは返さないだろ。」
「そう……ね。」
ならばどうして返してくれたのか、ますます読めなかった。分からなくて、真っ黒な少年を見上げた。こちらを向いたら彼から、視線が返ってくる。
おもむろに少年が彼女の前に屈みこんだ。彼の動作を目で追っていたナナセは、伸ばされた手にびくりと驚く。
「……お前、瞳の中に魔法陣が出来ているのか?」
頬に手を添えられ、物珍しげに瞳を覗き込まれた。間近で見る彼の金色の瞳に、ナナセはなぜかぞくりと肌が粟立つ。
「……そうかも、しれない。変化魔術――姿を化かす魔術は消えちゃったから。」
互いの鼻が触れる距離で普段通り言葉を返すのは難しくて、声が震えた。ちり、と胸がわずかに焼ける。
側で呻くキンヤをちらと見ると、少年はそっと口を開いた。
「……場所を変えるか。こいつらは放って置けば良い。」
少年が彼女へ手を差し出した。
この人は信じても良いのだろうか、ナナセはぐらぐらと迷いながら自分の手を重ねた。
久し振りに握った人の手は、温かくて柔らかくて、意味もなく泣きそうになった。
「行くぞ。」
「え、きゃ……!」
耳と同じ色をした黒髪は、世界の黒とは違う色に感じた。真っ直ぐに見つめてくる少年は、闇に染まっているはずなのにどこか澄んでいて、息を忘れた。頬の血を拭う姿すら綺麗で、声を見失った。
世界に染まった自分とは対称的な煌めきに、眩しい思いがした。
少年は少女に視線をやる。身構えた少女へ近付いて、少年は手を差し出した。
「これ、お前のだろ?」
少年は握った右手をナナセの目の前で開いた。その手の中には血に濡れながらも金に輝くルイの石。
「ありがとう……。」
耳飾りを返されることはナナセにとって意外なことで、言葉をうまく見つけることが出来ないままに両手を広げ、受けとった。
どうして助けてくれるのか、どうして返してくれたのか、分からなかった。
キンヤのときは、珍しく警戒心を忘れていた。静かに身を引き彼と距離をとる。
「お前、ルイだろう?」
「──……あ、」
動揺にナナセの瞳が揺らいだ。見ていただろう少年が笑ったような息を吐く。
「そんな姿していたら、だれでも分かる──ナナセ王女?」
小馬鹿にしたような声の響きに、ナナセは心中で憤慨した。
「そうです。あたしはルイ。ルイ・ナナセです。」
自分を狙う首狩りに見せる強気な目をしてみせた。何の足しにならなくても威嚇しないよりはする方が良いはずだ。
けれども彼は威嚇した少女を鼻で笑って、路地に目を遣った。
「俺はお前の首を狙ったりしてねえよ。狙っていたならソイツは返さないだろ。」
「そう……ね。」
ならばどうして返してくれたのか、ますます読めなかった。分からなくて、真っ黒な少年を見上げた。こちらを向いたら彼から、視線が返ってくる。
おもむろに少年が彼女の前に屈みこんだ。彼の動作を目で追っていたナナセは、伸ばされた手にびくりと驚く。
「……お前、瞳の中に魔法陣が出来ているのか?」
頬に手を添えられ、物珍しげに瞳を覗き込まれた。間近で見る彼の金色の瞳に、ナナセはなぜかぞくりと肌が粟立つ。
「……そうかも、しれない。変化魔術――姿を化かす魔術は消えちゃったから。」
互いの鼻が触れる距離で普段通り言葉を返すのは難しくて、声が震えた。ちり、と胸がわずかに焼ける。
側で呻くキンヤをちらと見ると、少年はそっと口を開いた。
「……場所を変えるか。こいつらは放って置けば良い。」
少年が彼女へ手を差し出した。
この人は信じても良いのだろうか、ナナセはぐらぐらと迷いながら自分の手を重ねた。
久し振りに握った人の手は、温かくて柔らかくて、意味もなく泣きそうになった。
「行くぞ。」
「え、きゃ……!」

