時は同じくして、かの路地裏から少し離れた上空には、天まで続いていると比喩されるほど高いビルの屋上を飛び回る少年がいた。
軍の特殊部隊の制服なのか、彼の胸には国の紋章が入っている。
動きやすいが重々しいその制服は、現王が掲げる深い緑色のもの。
特殊な形をしたフードのような柔らかい帽子は、目深に被られていて少年の表情を容易く隠す。
「よっ、と。」
少年は誰にも咎められることなく、空を駆ける。
屋上を、時には壁を蹴りながら空を駆ける。軽い身のこなしで上空を飛び回る少年は、まるで猫のようだった。
またビルの屋上を蹴り加速しようと足場を探して下を見て、地上に落ちている銀色に目を奪われた。
薄汚れたこの街には似合わない、澄んだ色だった。
よく見える目に頼ってみれば、女の白く輝く髪だった。彼女はまだ少女、とでも言うべきか。年齢は自分とさほど変わらないかもしれない。
彼女はアスファルトに倒れこんでいて、男たちに取り囲まれている。
どこかで見た気がすると既視感が過ったが、ピンと来るまでは至らなかった。
幸いそのビルは二階建て程度の低いビルだった。少し近づくだけで彼らがよく見えた。
見えたそれに、不覚にも見惚れてしまった。暗闇でも光を失わない銀髪、微かに見えた青い瞳。
綺麗で妖しいその光に、少年は惹かれた。同じ異の存在の自分には無いものを持っていると、感じたのだ。
男たちのボスだと思われる黒髪に彼女は何かを言われている。聞いていると女を囲んでいる彼らは知り合いという訳ではないらしい。
「どうせいらないその命なんだ。俺に楽をさせてくれよ。
お前が王から奪った王家の秘宝も、俺にくれよ。」
まっすぐに目の前の男を睨む白い女。男の台詞からこの女が誰か、やっと分かった気がした。
頭の言葉を聞いて、一瞬だけ影がさした青い瞳。
しかしすぐに顔をあげて言葉を返すその姿は、この闇の世界に慣れていると見える。
「いやよ。絶対に、……嫌。」
誓うみたいに空気に刻んだ拒否に、男たちが動き始めた。
「そうか、仕方ない。お前ら、やれ。」
その言葉で、男たちが動き始める。円を詰めて、丸腰の一人の女を武器を持った十人がかりで倒そうとする。
女は逃げずに真っ向から立ち向かうらしく、構えた。
ひとりの男の刀が女に襲いかかる。それを難なく交わして、魔術を使って切り返す。躊躇いなく自分より大きな男を蹴散らしているが、女は彼らを決して殺さない。出来るだけ傷付けない。
魔術師ではない少年でさえ、彼女のおかしな攻撃の意図が殺さない為だと容易に推し測ることが出来たほどに、あからさまなやり方だった。
女にしては魔術を抜きにしても強かった。華奢な女の体で、十人以上の屈強な男たちを相手する。
「うらぁっ!」
女の長い茶色のジャケットに刀が掠り、傷をつける。けれども衣服に傷を作るだけで、彼女には刀は届かない。
魔術を駆使し刀を素手で掴み刀を折り、男を足場に飛び上がり次の攻撃を避ける。軽い体でしか出来ないだろう身のこなしだった。
振り向きざまに放った魔法弾に当たり、幾人かが倒れていく。
本気を出せばこの男たちくらい簡単に潰せるのだろうが、彼女は潰すことを選ばない。自分の命を狙う輩を、殺さずに逃げることを選んでいる。
しかし、一人の女に対して十数人の男たちというのはさすがに数で男たちが勝る。
正面の男二人の相手をしている女に、背後から男三人が素手で飛びかかる。鈍い音と共に女が固い石の地面に引き倒された。
「きゃ!」
酷く焦った悲鳴は、小さな銀の彼女のもの。足掻く隙を与えられずに殴られた彼女の意識は簡単に奪われた。
軍の特殊部隊の制服なのか、彼の胸には国の紋章が入っている。
動きやすいが重々しいその制服は、現王が掲げる深い緑色のもの。
特殊な形をしたフードのような柔らかい帽子は、目深に被られていて少年の表情を容易く隠す。
「よっ、と。」
少年は誰にも咎められることなく、空を駆ける。
屋上を、時には壁を蹴りながら空を駆ける。軽い身のこなしで上空を飛び回る少年は、まるで猫のようだった。
またビルの屋上を蹴り加速しようと足場を探して下を見て、地上に落ちている銀色に目を奪われた。
薄汚れたこの街には似合わない、澄んだ色だった。
よく見える目に頼ってみれば、女の白く輝く髪だった。彼女はまだ少女、とでも言うべきか。年齢は自分とさほど変わらないかもしれない。
彼女はアスファルトに倒れこんでいて、男たちに取り囲まれている。
どこかで見た気がすると既視感が過ったが、ピンと来るまでは至らなかった。
幸いそのビルは二階建て程度の低いビルだった。少し近づくだけで彼らがよく見えた。
見えたそれに、不覚にも見惚れてしまった。暗闇でも光を失わない銀髪、微かに見えた青い瞳。
綺麗で妖しいその光に、少年は惹かれた。同じ異の存在の自分には無いものを持っていると、感じたのだ。
男たちのボスだと思われる黒髪に彼女は何かを言われている。聞いていると女を囲んでいる彼らは知り合いという訳ではないらしい。
「どうせいらないその命なんだ。俺に楽をさせてくれよ。
お前が王から奪った王家の秘宝も、俺にくれよ。」
まっすぐに目の前の男を睨む白い女。男の台詞からこの女が誰か、やっと分かった気がした。
頭の言葉を聞いて、一瞬だけ影がさした青い瞳。
しかしすぐに顔をあげて言葉を返すその姿は、この闇の世界に慣れていると見える。
「いやよ。絶対に、……嫌。」
誓うみたいに空気に刻んだ拒否に、男たちが動き始めた。
「そうか、仕方ない。お前ら、やれ。」
その言葉で、男たちが動き始める。円を詰めて、丸腰の一人の女を武器を持った十人がかりで倒そうとする。
女は逃げずに真っ向から立ち向かうらしく、構えた。
ひとりの男の刀が女に襲いかかる。それを難なく交わして、魔術を使って切り返す。躊躇いなく自分より大きな男を蹴散らしているが、女は彼らを決して殺さない。出来るだけ傷付けない。
魔術師ではない少年でさえ、彼女のおかしな攻撃の意図が殺さない為だと容易に推し測ることが出来たほどに、あからさまなやり方だった。
女にしては魔術を抜きにしても強かった。華奢な女の体で、十人以上の屈強な男たちを相手する。
「うらぁっ!」
女の長い茶色のジャケットに刀が掠り、傷をつける。けれども衣服に傷を作るだけで、彼女には刀は届かない。
魔術を駆使し刀を素手で掴み刀を折り、男を足場に飛び上がり次の攻撃を避ける。軽い体でしか出来ないだろう身のこなしだった。
振り向きざまに放った魔法弾に当たり、幾人かが倒れていく。
本気を出せばこの男たちくらい簡単に潰せるのだろうが、彼女は潰すことを選ばない。自分の命を狙う輩を、殺さずに逃げることを選んでいる。
しかし、一人の女に対して十数人の男たちというのはさすがに数で男たちが勝る。
正面の男二人の相手をしている女に、背後から男三人が素手で飛びかかる。鈍い音と共に女が固い石の地面に引き倒された。
「きゃ!」
酷く焦った悲鳴は、小さな銀の彼女のもの。足掻く隙を与えられずに殴られた彼女の意識は簡単に奪われた。

