空色の瞳にキスを。

穏やかな顔立ちと落ち着いた振舞いは武人というより学者のそれに近い。

王らしくない民と似た口調で語るのは、民に寄り添いたいという彼の志でもある。
王になりたての頼りない幼い頃は馬鹿にされた、その口調を貶す人はもう少ない。


「とうさん、おかえり!」

駆け寄り飛びついてきた娘を抱き抱えて、また穏やかに笑う。

「ただいま、ナナセ。」

ナナセはこの低い温かい声が大好きだ。
娘を抱えた王に金と黒の交じった髪色の執事が父に尋ねる。


「王、城に帰るのが遅れますが大丈夫ですか?」

「あぁ。今日はこの後城を出る仕事は無かったから。
私は書類を片付ければ済む。

──さてナナセ、また城のてっぺんの窓から飛び降りてきたのか?」

「うん!」

大袈裟なくらい頷く王女と呆れて苦笑する王を、周囲は笑って見ている。


「危ないと言っているのに。
危険をかえりみないところもお母さんにそっくりだな。」


カイは笑う口元とは裏腹に、瞳に悲しみの色を映す。

事情を知る民にも悲しみがよく伝わったようだが、誰もなにも言わない。

カイはナナセを降ろして一緒に歩き出す。

「お母さん……?」

その響きが懐かしくて、でも不思議で。

そっと見上げた父の顔は夕陽が眩しくて朧気だった。

「そう。
ナナセを生んでくれた人。

お前が三歳の時に死んでしまったけれど……。」

「どうして…?」


この答えはいつも返ってこないと、ナナセは分かっている。

──とうさんはいつもに悲しい瞳であたしを見つめるだけ。

けれど、聞かないわけにはいかなくて。

ナナセの髪は父譲りの銀色で、瞳は母と同じ空の色と皆が言う。

けれど母が誰か、ナナセはまだ知らなかった。

自分の母に何かがあったのはなんとなく感じている。
街の人は、その話に全く触れない。
父は母の姿を語らない。

母について写真も何も与えられていない。

ナナセが寂しさを覚えても不思議ではない。



──ねぇ。


──あたしのお母さんはどんな人だったの?