「……ナナセ、王女?」
「……そうだよ、トーヤ。」
知ったように笑うと、トーヤの顔が僅かに怯えを見せた。
「なんでっ、俺の名前!
アズキ、そいつの隣にいたら危ねぇ!離れろ!!」
『ハルカ』に見せたことのない鋭い眼差しで、トーヤはアズキに向かって手を伸ばす。その姿にまた俯くナナセの手を、アズキがかたく握った。
顔をあげれば、大丈夫とアズキが微笑んだ気がして。ナナセは少し心が軽くなった気がした。
「トーヤ、私は大丈夫だよ。ナナセは悪い人じゃ無いんだから。」
「そんなわけないだろ!いいから殺される前に離れろ!
そうだ、ハルカは!アズキ、ハルカは!?」
まわりを見回すトーヤに、ナナセは意を決した。もう耐えられなかった。
『ナナセ』の銀髪を『ハルカ』の黒髪に戻す。空の瞳を──茶色へ。
夜に沈む茶色の瞳は、彼が見慣れたもの。トーヤは声を失う。
「そういうことかよ……お前なんか、信じなきゃ良かった。」
長い沈黙のあと、トーヤが吐き捨てた言葉に、ナナセは心臓を掴まれた。『ハルカ』の居場所すら無くなったような気がして、また言葉を見失う。
「トーヤ!何で信じてくれないの!!ナナセは『ハルカ』なんだよ?ハルカの事、信じられないの?」
「信じろって方が無理だろ!
ナナセ王女は国の裏切り者なんだぜ!?アズキが甘いんだよ!なんでナナセ王女を信じられるんだよ!!」
トーヤは怒っただけの顔ではない。苦しみも、葛藤が表情にも見てとれた。
「──う……。ナナセは、ハルカだったんだもん!!
友達なんだもん……信じたいよ……。」
アズキは寂しそうに項垂れた。その姿に、トーヤも怒鳴れなくなる。
「……アズキ。確かにアズキは、人を信じすぎだよ。本当はアズキにあたしの事信じてもらいたい。でも、あたしが本当に人を殺してたら、アズキは騙されてるよ。……気を付けなきゃ、ね。」
どこか悲しい笑顔をアズキへ向ける。自分を疑ってと言っているのと同じナナセの言葉に、アズキは眉をひそめた。
本当は、自分の事を無条件で信じて欲しい。けれども、トーヤの言いたいこともちゃんと分かるから、という気持ちは伝えたくても飲み込んだ。
「トーヤ。」
『ハルカ』から本来の姿へと戻して、ナナセはトーヤの目を見た。未だ二人の距離は遠い。茶色の瞳が揺れを見せた。
「なんだよ。」
「あたしの事なんか、信じられないのは知ってるよ。……賞金首、なんだから。」
クスリと自嘲気味に笑う彼女に、彼は拳を握りしめた。
「けれど一度だけで良いから、話を聞いて。信じてくれなくたっていいから。……聞いて欲しいの。」
王女はそう言って、先程と同じ昔話を紡ぎ始めた。
窓枠に器用に腰掛けて話し始めた王女は、話の折に寂しそうにトーヤに、アズキに笑う。
「──なんでナナセ王女の話はそんなに辻褄が合ってるんだよ……」
話の終わりに、絞り出されたトーヤの声は、ぽつりと夜闇に沈みこむ。アズキがさっと顔をあげた。
「……そうだよ、トーヤ。」
知ったように笑うと、トーヤの顔が僅かに怯えを見せた。
「なんでっ、俺の名前!
アズキ、そいつの隣にいたら危ねぇ!離れろ!!」
『ハルカ』に見せたことのない鋭い眼差しで、トーヤはアズキに向かって手を伸ばす。その姿にまた俯くナナセの手を、アズキがかたく握った。
顔をあげれば、大丈夫とアズキが微笑んだ気がして。ナナセは少し心が軽くなった気がした。
「トーヤ、私は大丈夫だよ。ナナセは悪い人じゃ無いんだから。」
「そんなわけないだろ!いいから殺される前に離れろ!
そうだ、ハルカは!アズキ、ハルカは!?」
まわりを見回すトーヤに、ナナセは意を決した。もう耐えられなかった。
『ナナセ』の銀髪を『ハルカ』の黒髪に戻す。空の瞳を──茶色へ。
夜に沈む茶色の瞳は、彼が見慣れたもの。トーヤは声を失う。
「そういうことかよ……お前なんか、信じなきゃ良かった。」
長い沈黙のあと、トーヤが吐き捨てた言葉に、ナナセは心臓を掴まれた。『ハルカ』の居場所すら無くなったような気がして、また言葉を見失う。
「トーヤ!何で信じてくれないの!!ナナセは『ハルカ』なんだよ?ハルカの事、信じられないの?」
「信じろって方が無理だろ!
ナナセ王女は国の裏切り者なんだぜ!?アズキが甘いんだよ!なんでナナセ王女を信じられるんだよ!!」
トーヤは怒っただけの顔ではない。苦しみも、葛藤が表情にも見てとれた。
「──う……。ナナセは、ハルカだったんだもん!!
友達なんだもん……信じたいよ……。」
アズキは寂しそうに項垂れた。その姿に、トーヤも怒鳴れなくなる。
「……アズキ。確かにアズキは、人を信じすぎだよ。本当はアズキにあたしの事信じてもらいたい。でも、あたしが本当に人を殺してたら、アズキは騙されてるよ。……気を付けなきゃ、ね。」
どこか悲しい笑顔をアズキへ向ける。自分を疑ってと言っているのと同じナナセの言葉に、アズキは眉をひそめた。
本当は、自分の事を無条件で信じて欲しい。けれども、トーヤの言いたいこともちゃんと分かるから、という気持ちは伝えたくても飲み込んだ。
「トーヤ。」
『ハルカ』から本来の姿へと戻して、ナナセはトーヤの目を見た。未だ二人の距離は遠い。茶色の瞳が揺れを見せた。
「なんだよ。」
「あたしの事なんか、信じられないのは知ってるよ。……賞金首、なんだから。」
クスリと自嘲気味に笑う彼女に、彼は拳を握りしめた。
「けれど一度だけで良いから、話を聞いて。信じてくれなくたっていいから。……聞いて欲しいの。」
王女はそう言って、先程と同じ昔話を紡ぎ始めた。
窓枠に器用に腰掛けて話し始めた王女は、話の折に寂しそうにトーヤに、アズキに笑う。
「──なんでナナセ王女の話はそんなに辻褄が合ってるんだよ……」
話の終わりに、絞り出されたトーヤの声は、ぽつりと夜闇に沈みこむ。アズキがさっと顔をあげた。

