「……嘘みたい……。」
ナナセの語る昔話に呆然としてアズキが呟くと、ナナセは薄く笑う。
「嘘みたいでしょう?
でも、本当なの。アズキが信じてくれるだけでいいの。」
まっすぐな青色の瞳でアズキを見詰める。アズキとハルカの儚い友情にすがっていると分かっていても、言葉と裏腹にアズキを捨て切れなかった自分との葛藤をナナセは自覚していた。
弱い自分に負けそうで、ナナセは我知らず俯いた。
「──信じるよ。」
アズキの震えた声に顔をあげた。ぎこちなく、けれど大きな頷きに、空色の瞳を丸く見開く。
「……ほんとう?」
本人の意図せず落ちた呟きに、アズキは今度こそナナセを見つめて答えた。
「ハルカがナナセ様だって知っても、あたしはナ、ナナセを信じるよ。
……今まで一緒だったハルカが、嘘じゃないって、信じてる。」
小さな恐れが残った瞳で、アズキは頷いた。
「ありがとう……。」
信じてもらうことすら久しくて、言葉に詰まってそれきりなにも言えなくなった。賞金首の王女を信じていると、他の人に漏れたならただじゃ済まされないのに、嬉しいと思ってしまう。そんな自分に気づいて、信じてくれるアズキに申し訳なくなって。
「ナナセ……!?」
へなへなと床に座り込んでしまったナナセが見えたのか、アズキが腰を浮かせて慌てている。
アズキが自分をハルカと同じように名を呼んでくれていることに、また涙が零れた。
アズキは窓際に座るナナセの隣に並び、ナナセの左手と自分の右手を重ねる。
「ほんとはね、ナナセ様なんて怖くて仕方ない存在だったの。
正直、最初からナナセに会ってたら信じられたかどうかは分からないの。……私が信じられたのは『ハルカ』が居たからだよ。
ハルカの優しさがナナセ王女にも在るって、思ってる。
──私……ナナセのこと、信じてるよ。」
未だアズキの瞳の奥は怯えがあった。それでも真剣な目でぶつかってくるアズキに、ナナセは言葉を見失い、こくこくと頷くばかり。
彼女の唇が、ありがとうと動いた。その掠れた響きにアズキがほっとしたように笑って、張り詰めた空気が和らいだ。
「ハルカ、アズキー?」
突然扉が開いたのはその時だ。形だけのノックの後、間髪入れずに扉が開いた。咄嗟のことに、アズキとナナセは振り返る時間しかなかった。
──月明かりに輝く銀髪は、夜によく映える。
「……アズキ。隣の人って……」
ばたんと独りでに閉まった扉の音が、檻の下りた音に聞こえなくもない。
ナナセの語る昔話に呆然としてアズキが呟くと、ナナセは薄く笑う。
「嘘みたいでしょう?
でも、本当なの。アズキが信じてくれるだけでいいの。」
まっすぐな青色の瞳でアズキを見詰める。アズキとハルカの儚い友情にすがっていると分かっていても、言葉と裏腹にアズキを捨て切れなかった自分との葛藤をナナセは自覚していた。
弱い自分に負けそうで、ナナセは我知らず俯いた。
「──信じるよ。」
アズキの震えた声に顔をあげた。ぎこちなく、けれど大きな頷きに、空色の瞳を丸く見開く。
「……ほんとう?」
本人の意図せず落ちた呟きに、アズキは今度こそナナセを見つめて答えた。
「ハルカがナナセ様だって知っても、あたしはナ、ナナセを信じるよ。
……今まで一緒だったハルカが、嘘じゃないって、信じてる。」
小さな恐れが残った瞳で、アズキは頷いた。
「ありがとう……。」
信じてもらうことすら久しくて、言葉に詰まってそれきりなにも言えなくなった。賞金首の王女を信じていると、他の人に漏れたならただじゃ済まされないのに、嬉しいと思ってしまう。そんな自分に気づいて、信じてくれるアズキに申し訳なくなって。
「ナナセ……!?」
へなへなと床に座り込んでしまったナナセが見えたのか、アズキが腰を浮かせて慌てている。
アズキが自分をハルカと同じように名を呼んでくれていることに、また涙が零れた。
アズキは窓際に座るナナセの隣に並び、ナナセの左手と自分の右手を重ねる。
「ほんとはね、ナナセ様なんて怖くて仕方ない存在だったの。
正直、最初からナナセに会ってたら信じられたかどうかは分からないの。……私が信じられたのは『ハルカ』が居たからだよ。
ハルカの優しさがナナセ王女にも在るって、思ってる。
──私……ナナセのこと、信じてるよ。」
未だアズキの瞳の奥は怯えがあった。それでも真剣な目でぶつかってくるアズキに、ナナセは言葉を見失い、こくこくと頷くばかり。
彼女の唇が、ありがとうと動いた。その掠れた響きにアズキがほっとしたように笑って、張り詰めた空気が和らいだ。
「ハルカ、アズキー?」
突然扉が開いたのはその時だ。形だけのノックの後、間髪入れずに扉が開いた。咄嗟のことに、アズキとナナセは振り返る時間しかなかった。
──月明かりに輝く銀髪は、夜によく映える。
「……アズキ。隣の人って……」
ばたんと独りでに閉まった扉の音が、檻の下りた音に聞こえなくもない。

