空色の瞳にキスを。

アズキの口から出るのはやはり敬語で、ナナセは表情を崩した。

「ナナセもハルカもあたしだから。さっきまでのように普通に喋ってよ……。」

顔はお互いに見えない。仮にでも友達だった二人だから見えなくても何が言いたいのか分かる。
けれどアズキにはそんなこと出来ない。

「ハルカは、あたしの姿だけを変えただけ。性格はあのままなんだよ。
それにね、アズキ。……信じてくれなくても良いよ。だけどあたし、とうさんを殺してないんだよ。」

アズキは大きく瞳を見開いた。

「……え?」

アズキが聞いてきた話と食い違っている。公に出された情報では『父親殺し』の王女であるのに、本人は違うと言う。ハルカに未練のあるアズキの心が、ほんの少しだけ、傾いだ。

「あたしの本当の昔話をしてあげる。」
「本当の昔話……?」

ナナセは一度だけ振り向くと窓枠に座り、彼女の言葉に困惑したアズキと向かい合う。ナナセが彼女から視線を外し俯くと、薄い月光に銀の髪と青い瞳が薄く輝くから、アズキはその危うさにどきりとする。

「今から喋る話は、あたしのほんとの話。
──別に、信じてくれなくてもいいよ。もともと、あたしは信用されない人だから。」

ナナセの頬がきらりと輝いたようで、信じてと声無く叫ぶ王女の姿にアズキは胸が締め付けられた気がした。

信じてる、って本当は言うべきだって、アズキは思った。だけど、ナナセの声が嘘を吐かせてくれなかった。本当に信じていいのか分からなかった。大好きな友達が、突然賞金首だと言うのだから。
戸惑うアズキに向かって、そっと昔を語り出す。

「生まれたときには、あたしはお城にいたの。いつも城を抜け出しては、城下町のみんなに出会いに行っていたわ。」

昔を懐かしむ、『ハルカ』と同じあたたかい声がそっと物語を紡ぎ始めた。

伝わらなくてもいいなんて言ったけど、やっぱり本当は信じてほしい。

──お願い、信じて。

アズキに届いてと、願った。