空色の瞳にキスを。

誰が聞いても分からない自分の特徴から話し出す。

──本当のあたしを知らないでいて。

あり得ない願いが生まれて消える。

「あたしの今の名前の『ハルカ』はあたしのとうさんとお母さんの名前の欠片なんだよ……。」


──知ったらきっと隣にいる資格がないって気付くでしょう?

「昔、あたしはお城にいたあの話、本当だよ……。」

──どうかあたしを、見限らないで。

「あたしは、賞金首だよ……。」

──ハルカでこの場所にいたかった。

「あたしは──、」

ここまで言ったら引き返せないのに、ここにきて躊躇った。床に座っていたアズキが呆然と黒い瞳を見上げていた。

「ハルカ……ハルカは王族の、賞金首?──まさか……あの、ひと?」

遠回しに、でも決め手となる言葉。ハルカは小さな沈黙の後、瞳を伏せてこう呟いた。

「……そうだよ。」

その瞳に灯る、青い光。
いつもハルカが魔術を使うときの瞳だった。アズキに背を向けたまま、ハルカは自身にかけたままの魔術を解いていく。
彼女の黒髪がだんだんと色が抜け落ちていく。月明かりの中で黒から灰へ、灰から──銀へ。白く輝くその色は、アズキも聞いたことがあった。

伏せた瞳をもう一度アズキに向けた。その瞳はもう深い空色をしていた。

「ハル、カ……。」

覚悟はしていたはずなのに、目の前の彼女の姿を見たアズキは呆然として、それしか言えなくなる。

「あたし、ハルカじゃないよ。本当は……ナナセだよ。」

消え入るような声で呟いた彼女に無意識でアズキは小さく身構えた。それは、ナナセの姿は見れば生きて帰れないと聞いていたから。例えそうだとしても、ハルカだった彼女に恐れを抱いたようでアズキは自分が恥ずかしくなった。けれどその思いは表面的で、そう簡単に警戒は解けない。

「ルイ・ナナセ……。」

ぽつりとアズキが呟いた己の名に、ナナセは悲しく笑った。見上げた彼女はいつになく澄んだ瞳をしていて、賞金首なんて何かしら罪を抱いた人なのに、どこか彼女は違っていた。

「そう。あたしはルイ国第一王女ナナセ。本当は、誰にも言わずに出ていくつもりだったんだけど。」

見つかったねと笑う彼女は、いつものように悲しげに瞳を伏せた。アズキはごくりと唾を飲み込む。

「私、……ナナセ様を信用しても、いいの……?」

王女は自分勝手だ、敬われるのが好きだとどこかで聞いていたから、アズキはそれに従った。アズキの態度にナナセは眉を下げた。

「親も守れないような王女に、様なんか要らないよ。」

ナナセの含みある言い方に、ライの裏切りを知らないアズキは返事に戸惑った。

「すみません……。」