空色の瞳にキスを。

背後に聞こえる虫の音が、やけに存在を主張してくる。
やがて口を開いたアズキは、詰まり詰まりの言葉を繋げた。

「ねぇ。ハルカは『首狩り』に会ったことがあるの?……ハルカが怖がるくらいの、何かがあったの?」

肩を強張らせてハルカが小さく返答に詰まった。背中に月を背負うハルカのその反応は、アズキであってもよく見えたが、アズキは構わず続けた。

「何か隠していることは大体感じていたけれど、ハルカは何を隠しているの?
言って……?私、ほんとのハルカを知りたいよ……。」

それは酷く苦し気で、心に突き刺さる声だった。信用されていないと落胆するアズキのその声に、ハルカは逃げられなかった。
返す言葉を選んでいる間に、そっとアズキが近付いて来た。彼女もゆっくりと月明かりに照らされる。

ハルカの隣に床に膝をついて座って真っ直ぐにハルカの黒い瞳を覗きこんだ。無垢なアズキの視線から逃げるようにハルカは瞳を伏せた。

「あたしが本当のことを言ったら、アズキまで首狩りに狙われる……。」

言えなかったことを押し出すように、やっと言葉にできた。これが怖くて、言えなかったのだ。巻き込みたくなくて、言わなかったのだ。

「なんで?」
「なんでって……。あたしを知ったら首狩りに、」
「いいの。」

ハルカは顔を上げてアズキを大きな瞳で見返した。瞳は揺れて掌は握られていて、戸惑いがアズキにさえ伝わった。

「……いいよ。私はハルカが知りたいの。」

覚悟の決まった穏やかな声音に、言葉が詰まった。あんまりにも穏やかで、心が軋むように痛んだ。

──聞いてはいけないと上手く、伝えられない。

どこかでいつも、秘密を明かせてそれでも信用してくれる人を、求めていた。その心も相まって、止められなくなってきた。優しい世界に包まれて、心の鍵をかけるのを忘れたのだろうか。秘密を明かせば隠し通す苦しさから楽になれると、心のどこかが誘惑した。

「これを聞いてしまえばもう、後戻りは出来ないよ。後悔したって遅いよ。」

「うん。ハルカは他の人と雰囲気が違ったから。私たちの運命も、きっと変わるって思ってた。」

だから良いのと穏やかに笑う彼女に、また胸が軋んだ。
アズキは、こういう人なのだ。分かっていたけれど、これが彼女の良さで、悪さだ。人を易々と信じて疑わない彼女の強さと弱さに、不意に泣きたくなった。他人にやすやすと信頼預ける彼女が、眩しかった。

──どうして隠していると知っていても、嘘つきだって知っていても、それでも自分を信じてくれるのだろう。

そう思うと嬉しくて、悔しくて。このまま向かい合っていれば泣いてしまうと、ハルカは窓へ近付きアズキに背を向けた。

嘘をつくのも上手くなくて、独りでも居られなくて、彼女を引き摺り込む自分が嫌で、小さくごめんと呟いた。