「こんばんは。」

まずトーヤが第一声を上げる。

「こんばんは、どうぞ。」
ハルカはいつものように挨拶をして、スリッパを出す。

「ハルカちゃん~。
こんばんは~。」

どこか間延びした挨拶を返してくれたのは、トーヤの母。
トーヤの父はその二人の後ろに堂々と構えている。

そして四人で、いい匂いのするキッチンまでの廊下を歩く。

二人の家族は、時々食事をする仲だ。

訳あって親がいないハルカには、とても眩しくて。
その関係が、ハルカにはとても羨ましく思えた。

「いただきまーす!」

みんなの声が部屋一杯に響く。

カチャカチャと響く食器の音と、それぞれの笑い声。


「うちの向かいの家の娘、ハラルに嫁いだらしいなぁ。」
「向かいってカシワギさんじゃない?」
「カシワギさんの娘さんって、あの可愛らしい子?」
「そうそう、美人さんよね~。」
「まぁ、綺麗な人だよな。」

食事の中の、他愛ない会話。

ハルカは会話には加わらないが、アズキの隣で会話を聞きながらゆっくりと食べ進めていた。

「…そうそう、ここに『首狩り』が来るらしいなぁ。」
と、コルタが何気なく言った。

心臓の音が、ドクリと聞こえた。

「『首狩り』って、あの賞金首を捕まえてくれるあの人達?」
トーヤが確かめるように言った。
背筋が、ゾクッとした。

「そうそう。今回は聞くところによると、あの王女さまを追いかけているんだって…」


カチャーン…。


話をしていた6人は音のした方向を一斉に見た。

視線の先には、ハルカ。

「大丈夫?ハルカちゃん…。」

「え、あぁ…。
大丈夫です。
すみません、ちょっと首狩りの人達に出会った事があって、怖くて…。
話、されてたのに、すみません…。」

へらりと笑った顔はまだ青いままだ。


「いいのよ、ごめんね…
やっぱり顔色悪いけど大丈夫?
休んでおいで?」

トーヤの母がそう言ってくれたので、そうする事にした。


アズキは見た。
ハルカの視線がぐらぐらと揺れているのを。

─いつもと様子が違う。

おかしい。

きっと、何かある。

ハルカが出ていった後、しばらく悩んで、立ち上がった。

「ハルカ心配だから見てきていい?」