暗く澱んだ空気の中に、アズキは寝着のまま立っていた。息苦しさに溺れそうになる自分を必死に堪えて、まわりを見渡した。
薄汚れた小さな村が見える、そんな森に彼女はなぜか佇んでいた。不思議なことに足の裏には生々しい草の感触はしない。何かの力で浮かぶような心地だった。
アズキが育った町より些か設備が古い。田舎なのだろうか。村には現在のクレイシー王の治世のあとは見当たらない。振り返れば鬱蒼とした林が目に入った。
やけに生々しいただの夢かと思った矢先、背後の林で枝が折れる音が盛大に響いた。木々の上からなにかが落ちてきたようだ。
べしゃ、と地面に転がったのは薄汚れた小さな子供だった。マントを頭から被った、子供は頭を押さえてアズキの目の前で頭を抱えた。
「──ッ……。」
声にならない声を上げて踞る子供に、アズキはそっと近付く。目深に被ったフードのせいで、アズキには口元しか見えなくて、男か女か分からない。
「──何があった!」
「雷かー!!」
背にした村から声がした。ばたばたと走るいくつかの足音も聞こえる。
「たいへん……!!」
声色に焦りを滲ませて駆け出す子供に、アズキは咄嗟に手を伸ばす。
「待って……!!」
子供は森の奥へ走り出す。アズキはその背中をなにも考えずに追い掛ける。
姿を見られること自体が困るように、追われているかのように小さな背中は暗がりへと紛れようとする。そんな必要はあるのかとアズキは疑問に思ったけれど、答えてくれる相手もいない。
追いかけているうちに、逃げる子供が正面からアズキを『すり抜けた』。正面からやっと見えたのは、幼い女の子。彼女の動きにふわりと浮き上がったフードの中から零れたのは銀色の髪。焦りを浮かばせた水色の瞳に、見覚えもあった。
──逃げる小さな子供。
──空から落ちる幼い魔術師。
この夢が何なのか、やっと悟った。
薄汚れた小さな村が見える、そんな森に彼女はなぜか佇んでいた。不思議なことに足の裏には生々しい草の感触はしない。何かの力で浮かぶような心地だった。
アズキが育った町より些か設備が古い。田舎なのだろうか。村には現在のクレイシー王の治世のあとは見当たらない。振り返れば鬱蒼とした林が目に入った。
やけに生々しいただの夢かと思った矢先、背後の林で枝が折れる音が盛大に響いた。木々の上からなにかが落ちてきたようだ。
べしゃ、と地面に転がったのは薄汚れた小さな子供だった。マントを頭から被った、子供は頭を押さえてアズキの目の前で頭を抱えた。
「──ッ……。」
声にならない声を上げて踞る子供に、アズキはそっと近付く。目深に被ったフードのせいで、アズキには口元しか見えなくて、男か女か分からない。
「──何があった!」
「雷かー!!」
背にした村から声がした。ばたばたと走るいくつかの足音も聞こえる。
「たいへん……!!」
声色に焦りを滲ませて駆け出す子供に、アズキは咄嗟に手を伸ばす。
「待って……!!」
子供は森の奥へ走り出す。アズキはその背中をなにも考えずに追い掛ける。
姿を見られること自体が困るように、追われているかのように小さな背中は暗がりへと紛れようとする。そんな必要はあるのかとアズキは疑問に思ったけれど、答えてくれる相手もいない。
追いかけているうちに、逃げる子供が正面からアズキを『すり抜けた』。正面からやっと見えたのは、幼い女の子。彼女の動きにふわりと浮き上がったフードの中から零れたのは銀色の髪。焦りを浮かばせた水色の瞳に、見覚えもあった。
──逃げる小さな子供。
──空から落ちる幼い魔術師。
この夢が何なのか、やっと悟った。

