「ああ。首狩りか。」

「そうね。」

 答えながら弁償が面倒な窓ガラスはナナセが魔術で張り直す。彼らを襲った3人は軍服を着ている訳ではなかった。これまでの経験からこの見た目は首狩りだろう。

「なぜ気付かれたの……。」

 ナナセは今回、自分の姿に戻っていない。ナナセに戻っているのはこの部屋だけだ。慣れているとはいえ理由が分からないと恐ろしくなる。
ルグィンは思うところがあったのか首狩りのポケットを漁り始めた。

「ルグィン?」

 あった、とルグィンは男の腰巾着から小冊子を引っこ抜いた。ナナセもいくつか古い版のものは見たことがある。ぱらぱら、とめくっているルグィンの手元をのぞき込む。1ページ目はいつもナナセ自身だ。それを過ぎると新着のお尋ね者だ。

「あった、俺だ。」

「えっ、」

 確かに『黒猫のルグィン』は白黒写真付きで賞金首になっていた。ルグィンは軍の特殊部隊所属でナナセたちを本来追う側だ。載るはずもない立場だ。

「ついにか。」

 冊子を裏返して発行期日を見れば昨日の日付。ルグィンは覚悟していたように少し息をついた。ナナセはなにも言えなかった。

「とりあえずはここは出た方がいいな。荷物は……無事だな。」

 ルグィンは冊子をポケットにしまうと、ナナセを見た。ナナセははっとして鞄を持ってルグィンに駆け寄る。
 ナナセたちは宿屋に襲われた旨を伝えると、宿屋は申し訳なさそうにふたりを解放した。宿屋は自分たちが賞金首であることを知らないらしい。襲った人間が首狩りということは伏せ、強盗ということにした。いつかはばれるだろうが今はいい。

 宿屋を出た先で、ルグィンに腕を捕まれた。人がいない路地に連れ込まれる。

「俺も姿を誤魔化してくれるか。」

 ルグィンの頼みには頷くほか無かった。自身もファイの姿を取っているナナセは彼の頬に手を添える。目立つ耳を無かったことに、明るい金の瞳を夜色に。彼を見上げるファイの視界が涙でにじんだ。今は誰が見ているか分からない。謝罪もあとだ。

「よし、他の宿屋を探しに行こう。」

「そうだな、幸いそんなに遅くはないしな。」

 強がるナナセの様子を気にしたが、ルグィンも今はなにも言わなかった。ルグィンとナナセはまだ賑やかな宿が並ぶ通りを歩き始めた。