朝からナナセとルグィンは国を横断していた。いつものように人目に付かない場所を選びながら空を飛び、目的地まで南下する。
 今日はここで泊まるとナナセが指し示した街は、ソウレイという街のひとつ隣の大きな街だった。朝から飛びっぱなしだったふたりは、さすがに少し息が切れていた。ナナセも自分とルグィンのポテンシャルに任せて無理を利かせたことは重々承知している。
 人目の付かないところで空から降りたふたりは、街の中心地に向かって歩き出す。もちろん、ナナセは最近お気に入りの黒髪の少女に擬態している。

「隣町?」

「あたし、ソウレイにはあまりいい思い出がなくて。」

 尋ねたルグィンから逃げるように逸らされた青い瞳は、珍しく弱気だった。護衛を任されたルグィンは、ここにはソウレイに会いに来たということは聞いている。ナナセはそれ以上を詳しく話そうとはしなかった。
 宿は続きで運良くふた部屋取れた。特にすることも無いが、用心のためにルグィンの部屋でふたりでくつろいでいたところ、ルグィンの目がす、と鋭くなった。

「……音がしない。」

「え?」

 床に座り込んでいたナナセは首を傾げた。なんだそんなこと、とも思ったが、そんなことを警戒するルグィンの勘をあてにしない訳でもなかった。

「ここは宿屋だ。人の物音はするだろう。……構えてろよ。」

 静かにルグィンが扉へ向かう。いつでも立てるようにナナセは座り方を変えた。息を止めると、静けさが胸に差し込む。ドアノブにルグィンが手をかけた瞬間、ナナセが背にした部屋の窓が割れた。

「ナナセ!」

 ルグィンが叫ぶ。ルグィンが対したドアも乱暴に開けられた。
 ナナセが手を広げると青い膜がガラスを割って飛び込んできた男を包んだ。男はふたりいたらしい。青い水のような膜はナナセとガラスの間で盾のような役割を果たした後、男の手足を拘束した。ナナセがルグィンを見たとき、ルグィンも扉からの侵入者を伸したところだった。

「平気?」 

 ナナセがルグィンが伸した男に駆け寄り、先ほどの男と同じように魔術で手足に枷をはめた。