「夜に秘密特訓って響きだけでもなんだか格好良いよね。」
くすくす笑う幼馴染みに、呆れ返ってトーヤは頭を掻く。秘密特訓であったはずなのに、バレてしまえば意味がない。決まりが悪くて、少年は握っていた愛用の剣の柄を掌で遊ばせる。
「でもどうして?トーヤ強いじゃないの。」
何の気なしにアズキが少年を仰いで言ったその言葉に、トーヤがぐ、と息を止めた気配がした。
「アズキに、負けないために。」
躊躇いがちに落ちた声は案外重たくって、アズキは笑みのまま一瞬凍り付く。
「私に……。」
ぽつりと溢した声には、うん、と小さな声が返ってきた。
「アズキはすごいチカラがあって、改造もないのに魔術だって使えて。 俺は特別なチカラなんか無いし、ただ改造されただけだから。」
違うよ、トーヤと同じ平凡な人間だとアズキは言いたいのに、言われたことはその通りのことばかりで、アズキは上手く励ませなかった。確かにあのメノウの場で行われたのは封印を解く儀式だけで、アズキはトーヤと違う。彼女はもとから先視の魔術師で、彼は只の改造人間の魔術師だ。
──もっとも、そんなことはメノウでは知らなかったが。
「だから俺、みんなの役に立ちたいんだ。」
アズキは精神系、トーヤは物理系の魔術の使い手である。二人は比べられない自分と相手とに、負い目を感じるトーヤにどう言えば良いのか。
「トーヤが味方でいるだけで、みんな……きっと良いと思っているよ?」
ふぅ、とトーヤが空を仰いで吐いた吐息が頭上で白く散った。
「そんな綺麗事、嫌なんだ。俺は足手まといにはなりたくない。」
ふとアズキの隣に座るトーヤの体の熱さに気付く。どれだけ動けば、冬の夜にこんなに体が熱を持つのだろう。どれだけ真剣になれば、こんな目をするのだろう。トーヤの真剣な意地を垣間見た気がして、どきりとして恐ろしくなった。ひとつ年下の、弟みたいなトーヤが急に大人びて見えた。
「私、トーヤの気持ちわかるよ。なんにも出来ない、って。三人の背中ばかり見てる気がするの。」
言葉にするだけで、なんだか悲しくなってきたアズキは、トーヤの隣で伸びをする。
「ずるいよね、三人とも凄いんだもん。追い付けなくて、頑張る私がなんだか悲しいの。」
明るく口にしたアズキが伸ばした指先を、トーヤは黙って見つめていた。
「アズキも、そうやって思うんだ。」
努めて明るく言っているとアズキには丸分かりの声音は、気にしないことにする。
「なによそれー。私はあんな人たちの仲間入りはできないよ。必死で追っかけても、追い付けないよ。」
「アズキはチカラがあるじゃん。」
「あっても、使いこなせないなら無いのと一緒だよ。……ってお祖母ちゃんが言ってた。」
「俺、どうしたら足手まといにならずにすむかな。」
「……分からないね。私もおんなじ。どうしたら、あの人たちの力になれるか考えてるんだけど、私の力はいつ役に立つか分からないの。」
「そ、か……。」
「私、どうすれば良いかなんて分からないけどね、トーヤの相手くらいなら、系統違うし弱いけれどするよ。」
「お前が手伝ったら意味がねえよ。」
抜かしたい相手に相手をされるとはなんだか悔しくて、トーヤは顔をしかめた。
「けど、気分転換に相手してもらおっかな。」
立ち上がる音と、きぃんと地面に金属が当たる音がして、トーヤがアズキに向かい合う。背丈も持つ技も境遇も違ってしまったけれど、なんだか久しぶりにリョウオウにいた頃みたいで、アズキは嬉しくなって護符を構えた。
くすくす笑う幼馴染みに、呆れ返ってトーヤは頭を掻く。秘密特訓であったはずなのに、バレてしまえば意味がない。決まりが悪くて、少年は握っていた愛用の剣の柄を掌で遊ばせる。
「でもどうして?トーヤ強いじゃないの。」
何の気なしにアズキが少年を仰いで言ったその言葉に、トーヤがぐ、と息を止めた気配がした。
「アズキに、負けないために。」
躊躇いがちに落ちた声は案外重たくって、アズキは笑みのまま一瞬凍り付く。
「私に……。」
ぽつりと溢した声には、うん、と小さな声が返ってきた。
「アズキはすごいチカラがあって、改造もないのに魔術だって使えて。 俺は特別なチカラなんか無いし、ただ改造されただけだから。」
違うよ、トーヤと同じ平凡な人間だとアズキは言いたいのに、言われたことはその通りのことばかりで、アズキは上手く励ませなかった。確かにあのメノウの場で行われたのは封印を解く儀式だけで、アズキはトーヤと違う。彼女はもとから先視の魔術師で、彼は只の改造人間の魔術師だ。
──もっとも、そんなことはメノウでは知らなかったが。
「だから俺、みんなの役に立ちたいんだ。」
アズキは精神系、トーヤは物理系の魔術の使い手である。二人は比べられない自分と相手とに、負い目を感じるトーヤにどう言えば良いのか。
「トーヤが味方でいるだけで、みんな……きっと良いと思っているよ?」
ふぅ、とトーヤが空を仰いで吐いた吐息が頭上で白く散った。
「そんな綺麗事、嫌なんだ。俺は足手まといにはなりたくない。」
ふとアズキの隣に座るトーヤの体の熱さに気付く。どれだけ動けば、冬の夜にこんなに体が熱を持つのだろう。どれだけ真剣になれば、こんな目をするのだろう。トーヤの真剣な意地を垣間見た気がして、どきりとして恐ろしくなった。ひとつ年下の、弟みたいなトーヤが急に大人びて見えた。
「私、トーヤの気持ちわかるよ。なんにも出来ない、って。三人の背中ばかり見てる気がするの。」
言葉にするだけで、なんだか悲しくなってきたアズキは、トーヤの隣で伸びをする。
「ずるいよね、三人とも凄いんだもん。追い付けなくて、頑張る私がなんだか悲しいの。」
明るく口にしたアズキが伸ばした指先を、トーヤは黙って見つめていた。
「アズキも、そうやって思うんだ。」
努めて明るく言っているとアズキには丸分かりの声音は、気にしないことにする。
「なによそれー。私はあんな人たちの仲間入りはできないよ。必死で追っかけても、追い付けないよ。」
「アズキはチカラがあるじゃん。」
「あっても、使いこなせないなら無いのと一緒だよ。……ってお祖母ちゃんが言ってた。」
「俺、どうしたら足手まといにならずにすむかな。」
「……分からないね。私もおんなじ。どうしたら、あの人たちの力になれるか考えてるんだけど、私の力はいつ役に立つか分からないの。」
「そ、か……。」
「私、どうすれば良いかなんて分からないけどね、トーヤの相手くらいなら、系統違うし弱いけれどするよ。」
「お前が手伝ったら意味がねえよ。」
抜かしたい相手に相手をされるとはなんだか悔しくて、トーヤは顔をしかめた。
「けど、気分転換に相手してもらおっかな。」
立ち上がる音と、きぃんと地面に金属が当たる音がして、トーヤがアズキに向かい合う。背丈も持つ技も境遇も違ってしまったけれど、なんだか久しぶりにリョウオウにいた頃みたいで、アズキは嬉しくなって護符を構えた。

