ナナセとルグィンがここを発った夜、アズキはひとりで起きていた。
ナナセが居ないだけで夜の部屋が広く感じる自分に溜め息をついて、ぱたりと分厚い本を閉じた。気を抜いて背表紙に触れた瞬間、アズキの視界に白髪の老婆が映り込む。娘に読んでやっていた若い頃の老婆が揺らいでまた消えた。
なにも視たくなくて、彼女は視界を閉ざした。今日は大好きな読書も気が散って出来ない。どうしてか今日は感覚が鋭過ぎる。ナナセが隣にいないからなのかどうかは分からないが、確かに今日は普段を優に越える頻度で視えている。
現在でない世界と自分とを遮断する術を持たないアズキは、まだ眠りたくなかった。
──今眠ってしまえば、私はなにかを視てしまう。
彼女のこの手の予感はよく当たる。それならば気を張って視ないように起きている方が良い、というのが彼女の心持ちだった。感覚が冴え過ぎていて、落ち着けようが分からない彼女は、本を諦めぐるりと部屋を見渡した。
あまりぼんやり過ごす暇がなかったアズキは、次の暇潰しに迷った。目を止めた
先の部屋の大きな窓に、いつもナナセは迷うと窓の外へ出ていたなと思い出した。ふと魔が差して、アズキは彼女の癖を真似てみる。壁の段に腰掛けよじ登り、大きな窓を押し開けた。
「さぶ……!ま、魔法魔法……。」
外気に触れた途端に冷たさが染み渡る。よくこんな中、魔術があれど薄着でよく耐えられるものだ。寒さを凌ぐ魔術がなければ薄着でこんな中に出る物好きはいないはずだ。ナナセであればそれでも出ていそうだけどと、ひとりアズキは内心笑う。
「……大丈夫かなぁ。」
彼女はひとりではないと知っていたって、アズキにとっては気掛かりだった。
静かに空を見上げる。生憎の曇り空だけども、少しだけ空が見えるところもある。薄ぼんやりとした月明かりの世界は、いつもとはどこか違う。アズキが黙って音が消えたはずなのに、どこからか風を切る音がする。
音源を辿れば、庭に夜闇に動く人影。
「──あれ?トーヤ?」
ナナセが居ないだけで夜の部屋が広く感じる自分に溜め息をついて、ぱたりと分厚い本を閉じた。気を抜いて背表紙に触れた瞬間、アズキの視界に白髪の老婆が映り込む。娘に読んでやっていた若い頃の老婆が揺らいでまた消えた。
なにも視たくなくて、彼女は視界を閉ざした。今日は大好きな読書も気が散って出来ない。どうしてか今日は感覚が鋭過ぎる。ナナセが隣にいないからなのかどうかは分からないが、確かに今日は普段を優に越える頻度で視えている。
現在でない世界と自分とを遮断する術を持たないアズキは、まだ眠りたくなかった。
──今眠ってしまえば、私はなにかを視てしまう。
彼女のこの手の予感はよく当たる。それならば気を張って視ないように起きている方が良い、というのが彼女の心持ちだった。感覚が冴え過ぎていて、落ち着けようが分からない彼女は、本を諦めぐるりと部屋を見渡した。
あまりぼんやり過ごす暇がなかったアズキは、次の暇潰しに迷った。目を止めた
先の部屋の大きな窓に、いつもナナセは迷うと窓の外へ出ていたなと思い出した。ふと魔が差して、アズキは彼女の癖を真似てみる。壁の段に腰掛けよじ登り、大きな窓を押し開けた。
「さぶ……!ま、魔法魔法……。」
外気に触れた途端に冷たさが染み渡る。よくこんな中、魔術があれど薄着でよく耐えられるものだ。寒さを凌ぐ魔術がなければ薄着でこんな中に出る物好きはいないはずだ。ナナセであればそれでも出ていそうだけどと、ひとりアズキは内心笑う。
「……大丈夫かなぁ。」
彼女はひとりではないと知っていたって、アズキにとっては気掛かりだった。
静かに空を見上げる。生憎の曇り空だけども、少しだけ空が見えるところもある。薄ぼんやりとした月明かりの世界は、いつもとはどこか違う。アズキが黙って音が消えたはずなのに、どこからか風を切る音がする。
音源を辿れば、庭に夜闇に動く人影。
「──あれ?トーヤ?」

