獅子はゆらりと目を伏せて普段の金に暗い茶色を滲ませて。
けれど普段の声音を装って、言った。

「獣を使わない、あの魔術で生まれた子よ。」

「あ…。」

アズキやナナセ、トーヤがそれぞれに声を落とした。

─新しい開発の魔術だ─。

「でもサジュは、錯乱に弱いだろ。」

ルグィンのその言葉に、彼女は頷き答える。

「ええ。探ってみたらまだ克服できていないままみたいだし。
だからあの子を誤魔化すことは出来るわ。」

だから心配しないでと、スズランは強気に笑った。
安堵を見せた3人に、それにねと言葉を繋げてまた挑戦的な目を見せる。

「先見の力で貴女は捕捉出来るけれど、他の人は捉えにくいもの。」

だから霧の出る春を選んだの、と。


アズキたちにとって、魔力の小さな人間は、特徴がある王女のような人間よりも追いにくい。

捉えにくい他の人を使うような言い方から、アズキが答えに辿り着く。

「他の人にも、手伝ってもらうの?」

「え、」

ガタンと椅子から勢いよく跳ね上がったナナセに、視線が集まる。
薄い青の瞳に動揺を滲ませたナナセに、ルグィンが口を開く。

「5人で国を覆せるほど、俺達は強くないんだから。」

ふ、と流し目でこちらを見遣ってそう告げた黒猫は、自分で告げた事実にぐっと拳を握り込む。

「─けれど、」

「平気よ、貴女の味方に協力してもらうだけ。」

立ち上がった銀髪の王女に、獅子がちょっと笑いかける。
スズランの笑みを見ると焦りや動揺が収まる自分に呆れつつ、ナナセは椅子に座り直す。

「ルグィンが言う通り、私達皆それぞれは普通の人間よりも強いわ。

けれど、相手が1000人居たら?
敵が皆それぞれ強くて、魔術で攻撃してきたら?」

そう問われれば、答えられなくなる。

「だから、貴女は民を巻き込みたくは無いだろうけど、私は大人数で一緒に戦った方がいいと思うの。」

ぐらりと揺れる素直な空色に罪悪感を感じるが、彼女の意思よりも彼女の未来を取るのが獅子の彼女。

「貴女を王にしたいと願う人間はたくさん居たわ。
きっと力になってくれる。

だから、城下に来月入りましょう。」

監視の目を避ける方法は任せてと笑うスズランに、王女はなにも言えず頷いた。