一息吐いた後、言葉が続く。

「まぁ、私は貴女の味方だから、悪いようにはしないから、もう少し隠させて。」

まだ聞いてはいけないことだったとナナセは獅子の表情を見て感じる。
そっと心に押し込めたら、少しだけ思いを図るように金茶を見てから、彼女は柔らかく頷いた。

「そう。分かった。」

疑いの色のない空色に、自然と視線が集まって。

屋敷の主人は皿を脇へそっと退けて、肘をつく。
手を顎の下で重ねて、向かい側に座る栗色の少女は少しだけ緊迫感のある声を落とした。


いつもこの仕草の後は妖艶に笑むのに、今日だけは怖いほどに真面目だった。

「銀の王女は、今まで以上に狙われるわ。
貴女を危険に晒すこと、許して。

貴方達を拐いに来る輩のために警備は強く、今までの比べ物にならないようにするわ。

けれど、街までは守り切れない。
気をつけて。
捕まったら、元も子もないわよ。」

「うん、」

「…まぁ、納得できないとこもあるけどな。」

トーヤの不満声にスズランは困ったように笑う。
肩を揺らして浅く笑う仕草は、誤魔化しているのか、申し訳なく思っているのか分からない。

「貴方達なら負けないから、賭けるのよ。

それより分かってるの?
ナナセだけじゃなくて、貴方達も狙われるのよ?」

射抜くみたいな金茶に、トーヤの声は消える。

「っ、」

「わかってる。
こんなこともあろうかと、今まで教えてくれたんでしょう?」

トーヤよりもしっかりとした返事を返したのは、先見の少女で。
まだ些か堅さを残しつつ、覚悟を映した瞳。

「ご名答。」

スズランの艶のある口の端を上げたのが口元で組まれた手の隙間から見えた。
それを見て、らしくなく強気に笑うアズキの決意に、ナナセはまたどきりとした。

同じ世界にいることは、嬉しいけれど、怖かった。

─今は、心強くて。

真っ直ぐな瞳が綺麗だった。

「それに、困れば私もナナセもルグィンもいるわ。
私かルグィンの名を呼んでくれれば、飛んでいくわよ。」

とんとん、と自身の耳をつついてそう言うスズランにトーヤが首を振る。

「そうならないように、努力する。」
「ええ、頼みました、捕まりませんように。」

それを見て妖しく笑う獅子は、何を考えているのやら。

窓から覗く冬の極寒の寒さの中の空は綺麗で、高く青かった。