彼女たちの背中を笑っていると、敏感な金色の耳が廊下に聞き慣れた忙しない足音を察知して。

「─あ、トーヤ。」

呟きを聞いた隣の少女の瞳が魔術によって、微かに空色が強くなる。
鍵の魔術の解けた扉を騒々しく開け放って、凄い勢いで入ってきた少年。

「寝過ごした!」

着替えは済ませているものの、暗い茶色をした髪の毛が軽く跳ねている。

中途半端な姿に、スズランが口元を緩めて、声を飛ばす。

「おはようトーヤ。
そんなに慌てなくても大丈夫だから、もう一度戻ってちゃんとしておいで。」

「はーい…。」

まだ眠たいらしく、欠伸をして大人しくトーヤは今来た道を戻っていく。

眠気に丸まった背中を見送り、振り返り指示を飛ばすスズランはすっかりこの5人のお姉さんだ。

「ルグィン、厨房にもう一台とーやの為にカートを置いているから、取ってきて頂戴。」

小さく頷いた黒猫も静かに部屋を出ていく。
静かになった部屋に、陶器の音が部屋に染み込む。

「終わりー!」

アズキは万歳をするから、隣に立つスズランが吹き出す。

「なによ。」

「いいえ、別に?
アズキよりナナセの方が年上みたいだなんて思ってないわよ?」

素知らぬ顔をして笑いかけられた先見の彼女は頬を膨らませる。

「そういえば二人はどうして目が赤いの?」

「ナナセのせいだもん。
ナナセの朝の相談が悪いんだもん。」

口を尖らせて不服そうに口を開くアズキに、銀髪の少女は声を詰まらせる。
じろ、と獅子の少女に、睨まれたナナセはしばらく躊躇った後、ため息と共に言葉を吐いた。

「叶わない恋をしたから、諦める手だてを聞きたかったの。」

「そんなことしたら、怒るよ。」
「…─ナナセは、」

まだ微かな刺を含む声音のアズキと、珍しく躊躇いながら声を落とすスズランに、ナナセは淡い微笑みを浮かべて。


「…うん、あたしは諦めないでいるよ。」

─どうしようかなんて分からないけど、心は消さないでいるよ。

まだ、怖いのかそっと、波紋を立てぬように言葉を落とす黒猫の想い人。

二人の想いを知る獅子は、思わず、良かったと安堵が口から零れた。

可愛い妹を見守るような心境で、そっと彼女の柔肌に触れて、小さく心の中で思う。


─あの子の想いも、この子の想いも、無駄にならない。