しばらくして扉を叩く音がしたから、二人はそっと扉を開ける。

スズランとルグィンを二人で仲良く招き入れてくれたのに、二人とも涙目で、先程までの事情を知らない獅子の少女は二人の様子を訝る。

「あれ、トーヤは?」

入ってきた二人と共に来るはずの姿を探してアズキは辺りを見回すから、獅子が呆れたように笑う。

「あぁ、あの子、寝坊よ。」

獅子の少女に、小さなナナセはくすくす笑って彼女を見上げる。

「まぁ一日くらいいいじゃない。
だからスズランも置いてきたんでしょ?」

「まぁね。」

ナナセは獅子を見透かしたように意図を汲む。
いつも前に立つ獅子にとっては新鮮で、嫌ではなくて。

アズキはナナセにつられてくすりと笑って、スズランは押してきたカートから中身を広げ始める。

暖かさを保たれるように魔術がかかった木製のカートは、この屋敷特製の品。
温かい食事を屋敷中に提供するための主人の彼女の配慮は、この部屋だけでなく、屋敷中に行き届いている。

「ほら、冷めるわよ。」
「はーい。」

てきぱきと動くスズランを3人は手伝い、準備を始める。

少し間を置いて、赤い目の二人と机をはさんで向かい側に立ったルグィン。

しばらく黙って皿を並べていたが、そっと二人の目元を見てぼそりと呟きが落とされる。

「お前ら、目。」

その問いに、アズキは首を左右に振る。

「あぁうん、気にしないで。
ね、ナナセ。」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

獅子と黒猫の視界の中で、二人は顔を見合わせて目線で会話する。。

ルグィンに向けてへらりと誤魔化すようにナナセが笑うと、その表情をちらりと見た彼は、手を止めて頷いてなにも追及しない。
机に静かに皿を置きながらふっと息を吐いた彼は、皿の装飾を見つめて、言葉を落とす。

「そうか。」

ただぽつりと溢したその一言だけでもう二人はいいようだった。
二人はそれきり視線を外して、お互い動き始める。

それを見てアズキは先程のこともあって、むっと口を曲げる。
アズキはしばらく仁王立ちで、もう動き出したナナセを見て、諦めて動き出す。

その姿を後ろから見ていたスズランには、他の反応は普通なのに、どうしてか二人を見るアズキがどうしてもなにか抱えているように見えて。

彼女が目をつけたのは、肩を過ぎた銀を揺らして朝食の準備にお湯を持ってくる、彼女の左頬。
赤みがまだ残るその頬にぴんときて彼女は鼻で笑う。

─仲直り済みの喧嘩ってところかしら。